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古文書奮闘記その3

1.前回のおさらい

 奮闘記その2からずいぶん期間があいてしまった。身に付き始めていた古文書スキルが淡雪のように昇華していくのを痛感しつつ、気を取り直して奮闘記を再開する。
 その2を公表以降、先輩方から翻刻と読み下しの正解稿や解釈が寄せられた。ありがとうございました。それをそのまま横流し掲載してしまえばなんの進歩も経験値もないので、自分なりに正解を模索し、たまに正解稿をカンニングするようなスタイルで解読を進める。

 その2では、本文4行目まで翻刻と読み下し、意訳を行った。

 右之御田作今度地成御見分頼
 奉申上候処為御見分御三人様被遊
 御出郷作方御丁寧に御見分之上
 壱石代御免四ツと被 仰聞候得共

読み下し文は
「右の御田作、この度、地成りしに、御検分お頼み申し上げたてまつりし処、御検分の為、御三人様御出郷遊ばされ、作方御丁寧に御見分の上、壱石あたり御免四つと仰せ聞かされ候らえども」

意訳は
「右記載の田畑につきまして、この度、無事実りを迎えましたので、御検分をお頼みしたところ、御検分の為、御三人様に現地に出向いていただき、作柄を御丁寧に御見分の上、壱石あたり四割を上納御免とお聞きしたところではありますが…」

 「壱石代御免四ツ」の解釈だが、私は「壱石あたり四割を上納御免」と解釈したが、この時代の税制では五公五民が一般的であることを考えると、六公四民は取り過ぎのような気がする。
 この文書が書かれたのは天保8年10月。大塩平八郎の乱勃発が天保8年2月。天保の大飢饉は天保4年から7年まで続いている。乱は別としても、大飢饉の直後であることは何らかの影響はあると思われる。

2.本文解読再開(5行目から)

 さて5行目から解読を再開する。
 文字割りをして、読める字を上からはめ込んでいく。
  右〇田之〇〇地〇不〇之上御〇田

古文書解読AIアプリ「みを(miwo)」の解読結果は画像のとおり。

変なのは無視してそれらしいのを〇に当てる。
 右〇田之〇〇地之上御〇田

 二文字目は「行」と出たが、行にんべんには見えない。つくりが斤に見えたので、くずし字字典データベースで検索すると

「新」でまちがいない。
 行にんべんを調べていて運よく以下の文字に出会った。

 5文字目は「儀」ではないか。
あてはめると
 田之〇地味不同之上御〇田

 「地味不同」とは派手の反対語の地味(じみ)ではなく、土の良否といった意味の地味(ちみ)だと思われる。地味不同とは土質が均一ではない様を表していると思われる。田の前の文字はわからないままである。先輩たちは「本」あるいは「出」としている。

 続いて6行目は14文字。
  〇〇〇〇別〇〇〇〇〇〇〇〇〇
 あれ?別しか読めない。ムスカ大佐の霊はどこかに行ってしまったようだ。
 「みを」は2文字目を「水」と呼んでいる。7文字目にも同じ字が出てくる。ここから確認していく。
 くずし字字典DBで水を検索すると下のとおり。

確かに同じ形状が確認できる。手でなぞってみても、どうしても水とは結び付かない。難解である。
 3文字目は「斗」に見えるが、「け」の変体仮名でもあり「計」かもしれない。ここで先輩方の解読をカンニングすると。お二人が1文字目を「餘」と呼んでいて、「みを」は「余」と呼んでいる。餘水も余水も同じ意味だ。また4文字目についてお二人とも「にて」とひらがなと解読している。ここで3文字目が「斗」でよいことに気づく。水と斗の関係。北斗七星の斗は「ひしゃく」である。つまり「余水ひしゃくにて(汲み出す)」と読むのだと思う。「餘水斗にて別〇水〇」。
 やれやれ。やっと7文字である。「別」の後のシンプルな斜め線は「候」だと思ったし、「みを」も「候」と読んでいる。しかし前後の文字からみて、なんともすっきりしない。先輩方は「に」と読んでいる。

「水」の後の文字は、「みを」も先輩方も「懸」と読んでいる。くずし字字典DBで確認すると、なるほどそれらしいのがある。自力では絶対たどり着けない文字である。

次もカンニングからの後追い確認であるが、「等」を確認する。このひらがなの「お」みたいなのが「等」である。

原文をよく見ると「懸」と「等」の間に長いはねがある。懸の送り仮名の「り」と思われる。
「餘水斗にて別に水懸り等〇〇〇〇〇」
あと5文字だ。ひぃひぃ…。
 「等」の後は先輩方の解読も一致せず、「みを」も変である。正解が確認できないが、「には」ではないかと思う。
 続く文字は先輩の一人と「みを」が「無」と読んでいるので確認する。
うーん…。似てるとは思うが。
そして次の文字を「座」と読んでいる。

これは一致しているとは言い難い。
 困った!

 途方に暮れつつ、ネットをポチポチしていると、「紙魚の穴」様が運営する「AIくずし字検索」というサイトに出会ったのでご紹介する。手書きで文字を書くと正解候補が表示されるものだ。
 試しに「座」と思しき文字をまねてなぞってみたら、候補にちゃんと「座」が表示された。すごい!これはお薦めです。

 ここでひとつ気になることが生じた。先輩の一人が「無」と「座」の間に「御」を入れていること。

「あり得んやろ」と思ったが、御を入れると御座無くと言ったよく使う表現になる。もう一度原文を眺めてみると、確かに筆先が無からまっすぐ座に向かっていない。これが「御」なんですね!まいりました!

 あと2文字の確認を進める。「みを」は「そも」と読んでいるが、先輩方はそろって「是迄」と読んでいる。くずし字字典DBの結果は下のとおり。

ちなみに「AIくずし字検索」でも右のとおりヒット。

 6行目は
餘水斗(ひしゃく)にて別に水懸り等には御座無是迄」

 

 

 続いて7行目。
例によって、文字割りをして、読める字を上からはめ込んでいく。
 入〇多〇〇仕候〇〇〇御〇〇
さらに「みを」からそれらしい文字をはめる。
 入〇多難渋仕候〇段々御〇〇

 

 

 

 

 ここで諸先輩解読をカンニングすると、2文字目が「箇」、8文字目が「に付」。二文字やったんですね。そして最後が「歎き」。順を追って確認していく。

うーん、これは…。
竹かんむりは一致するものの、国がまえがない。

くずし字字典DBで竹かんむりを検索する。

「籌」がなんとなく似ている。意味は「計算や抽選に使う竹の細い棒」のこと。動詞では「資金や物を集めること」。音読みは「チュウ」。

「入籌多く難渋つかまつり候」、物入りで難渋しているという意味なら、しっくりくる。

 続いて8文字目。「斤」かと思ったが、先輩方は、送り仮名やひらがな助詞を左寄せする古文書独特の表記を見流さない。この位置の「ニ」は前の行にも出てきた。そして残った文字が「付」。

最後の「歎」は、左のとおり。3文字目の「難」とへんが同じであることもチェックしておく必要がある。

ひらがなの「き」の字母は「畿」だが、ここでは変体仮名の「支」を用いている。

さて、文章のきりが悪いので8行目の前段まで翻刻する。

 申上候処

 すんなり翻刻できたのは、本文2行目に同じ文字並びがあるからだ。
 正解稿によると、1文字目は「奉」とのことだが、題字に出てくるような「奉」は見当たらない。
「みを」も「申」と認識している。このこざとへんみたいなのが「奉」らしい。くずし字字典DBでも該当候補が見当たらない。先輩方が二人ともここに「奉」をはめたのは、前後の文脈と長年の経験からなのかもしれない。

5行目から8行目中段までの翻刻をまとめる。
 右新田之儀は地味不同之上御本田
 餘水斗にて別に水懸り等には御座無是迄
 入籌多く難渋仕候に付段々御歎き
 申上候処

読み下し文は
 右新田の儀は地味不同の上、ご本田は
 余水斗(ひしゃく)にて、別に水懸かり等に御座無く、
 是迄、入り籌(ちゅう)多く、難渋仕り候に付き、
 段々、お歎き申し上げたてまつり候処

意訳は
 右のうち、新田につきましては地力が不均一の上、
御本田はひしゃくにて余水を汲み入れるも、十分な水懸かりとならず、これまでから出費が多く、難渋しておりましたれば、折に触れ窮状をお伝え申し上げてきたところ、

 今回もたった3行半で精も根も尽きた。その3はこれくらいにしといたろ。

<参考リンク>
AIくずし字検索 運営者:紙魚の穴

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