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北琵琶湖城歩き

 年度末ということもありストレスが溜まってきたので、気晴らしにドライブに出かけた。昼過ぎには長浜城五階の展望台から琵琶湖を見下ろしていた。

 展望台でよく見かける眺望解説のイラスト版を見ていてふと気づいた。正面やや左奥の、霞がかった辺りが安土城跡で、そこから左に向かって井伊家の彦根城、石田三成の佐和山城跡が並んでいるとのこと。彦根城は輪郭が確認できるが他はよく見えない。そしてここは羽柴秀吉の初めての居城、長浜城。反対側の展望デッキには残雪を纏う伊吹山と小谷城跡がある。そして姉川、賤ヶ岳、関ヶ原と時代が少しずつ違う超有名な古戦場が一望できる。そして対岸には比叡山。この城はすごい場所にある。

 戦国の覇者たちは、なんでこれほどこの地にこだわって激戦を繰り広げてきたのだろうか?その答えは琵琶湖の水運ではないだろうか。生産力の源泉である田畑拡大のため領地を奪い合ってきた価値観は、商品経済の発展に伴い物流拠点を抑えることへの関心にとって代わっていったのだと思う。
 物流は同時に人流でもあり、すなわち情報の流れでもある。その中で戦の形も変わってきている。あちこちに手紙を送り情報操作しながら離反や野合を持ちかける。堅固な大手門を攻め上げるより長期包囲戦で飢えさせるほうが安上がりだとの発想が生まれる。武芸や勇猛さで名を馳せた武将たちが知略に富んだ覇者に凌駕されていく。
 長浜城の城郭は内堀まで大型船が入渠できる構造になっている。防戦時には兵糧確保手段であり、攻戦局面では船舶輸送による早期軍勢展開の利点を兼ね備える。

熊が出るそうです

 まだ日は高く、せっかくなので小谷城まで足を延ばす。浅井朝倉連合軍と織田徳川連合軍が激突した激戦の山城を踏破するだけの時間はない。せめて麓の歴史資料館を拝観できれば来た気になるだろう。山肌に高く掲げられた小谷城跡の看板を目印に、到着したのは小谷城跡ガイド館。ところがまだ午後4時前というのに人気がない。施設も施錠されている。どうやら谷筋を間違って入ってきたらしい。施設に貼られた地図を見ると、ここから本丸近くの番所跡まで車で上がれるらしい。せっかくだからと、舗装はされているものの一車線で急峻な山道に入った。冠雪した伊吹山が、長浜城から見た時よりも近く大きく見える。道路の行き止まりは眺望が開けた場所で、竹生島など北琵琶湖の素晴らしい景観にしばし見とれる。ふと見ると「本丸まで400m」の看板。ここでまた「せっかくだし」と思ってしまったのが間違いのもと。ケモノ道のような、道なのか崖なのかと言うような登山道を30分ほどひいひい登る。
 小谷城の主要施設はこの尾根筋に一直線に並んでいる。稜線の両側は、50度以上はあろうかという急斜面。この斜面からの側面攻撃は不可能である。比較的勾配の緩い西側斜面は谷の入り口に防御線が敷かれ、さらに谷の西の尾根には数か所の出丸が配置されているのでここからの侵攻は困難を極める。結局、正面の尾根筋を攻め上がるしかないが、そうなると部隊は一列か二列縦隊で細々と進むしかなくなる。よく考えられた山城である。

大広間 正面奥の高台が本丸

 本丸手前に広がる大広間跡地は浅井長政の居宅があったとされている。なんでこんな不便な山の上に住んだのだろうか。身の回りの世話をする従者や、報告や伺いをしに来る家臣たちにとっては迷惑なことであったろう。琵琶湖を見下ろす風景が気に入ったということではないだろうが、そのことも権威づけの一つであったかも知れない。

 西日に光る琵琶湖の湖面も、真っ白な伊吹山も。これらの風景は現代も戦国の世も変わっていないだろう。信長も秀吉も光秀も長政も毎日見た風景を、今、自分も普通に眺めていることに感慨を覚える一日だった。

西田

「北琵琶湖城歩き」への4件の返信

グイグイと引き込まれて読み終えました。臨場感すごいです、彦根城や安土城跡に登った時のあの眺望が蘇りました。長浜城の展望台に上がろうと思いました。作家の上等の紀行文を有難うございました。

薮下様
早速のコメントありがとうございます。
実はあんまり本を読んでいないので、この辺りのことはよく知らないのです。調子に乗るとすぐボロが出ます。

拙い感想ですが、小谷城跡には行きませんでしたが安土城跡に行きました。きつい階段下でリタイア、おっしゃる通り京都に近い琵琶湖の水運は大切な交易のルートだったのでしようね。成程と思い書かせていただきました。

岩井様
コメントありがとうございます。
トランプ君のように、各地の豪族が傘下の商品流通に税金をかけて私腹を肥やしていた頃、信長がいきなり楽市楽座、つまり関税ゼロ、ショバ代ゼロを始めると、急激に物流が信長傘下に集積した。それを目の当たりにした弟子たちだから、琵琶湖の水運を抑えようとしたのは自明かもしれません。
                         西田

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