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古文書奮闘記

はじめに

 歩兵十連隊の翻刻にかかわったことを機に、せめてもう少しくらい古文書が読めるようにならねばと痛感した。さて、何から始めようか。
 それほど知識があるわけでもない私が、はじめて古文書解読に取り組む過程をご報告することで、これから古文書解読を始めてみたいと思われる方々の参考になれば幸いである。

古文書解読に必要なスキル

 歩兵十連隊の文語体に触れてみて、その拙い経験から、古文書を読み解くために必要なスキルを考えてみた。まずは毛筆力、そして漢字力、国語力、最後に歴史力。

 毛筆力はくずし字を判読するためには不可欠だと思う。西尾市岩瀬文庫のホームページ「はじめてみよう古文書入門」では、まずは筆写することを勧めている。くずし字の形をまねて、筆の入り方や、偏(へん)・旁(つくり)を意識してたどりましょうと勧める。これはやってみようと思う。

 漢字力は、旧字体や異字体の知識を求められること。漢字なのに音だけで、かなとして表記されることもある。かなの字源の漢字もおさえておくことも大切だと思う。「は」の字源は「波」であが、「者」「葉」も用いられる。これを変体がなという。

 国語力とは文語体特有の言い回しに関する語彙力。被仰付(仰せ付けられ)、可申候(もうすべくそうろう)などはよく出てくる。
 もともとは漢文であるため、中国語の主語、述語並びを踏襲しているため、読み順を変えて読む箇所がある。ただし返り点や、一二点はない。被や可のように文字で判断する。これを返読文字という。
 「江」や「ニテ」などの接続助詞は右に寄せて小さく書く。理由は不明。
 文中に、敬意を表す目的で1文字空欄を設けることがある。これを闕(けつ)字という。

 最後の歴史力とは、文書の書かれた時代の歴史背景を熟知し、筆者の意図を推察しながら読み解いていく力。この点を読み間違えると解釈が180度変わってしまう場合がある。

 以上、必要なスキルについて、まとめてみた。
 スキル向上のためにはOJT(オンザジョブトレーニング)が一番であるが、まずは基礎をおさえるつもりで、ネット上の古文書入門講座を視聴してみた。佐賀県立図書館の古文書入門は動画講座でわかりやすい。10分程度の動画で30講座を視聴することができる。

<参考リンク>
はじめてみよう 古文書入門 西尾市岩瀬文庫
くすクスくんのWEB版古文書入門 佐賀県立図書館 動画講座
おうちで古文書講座 山梨県立博物館 海老沼真治学芸員

「奉差上御請書之事」を読む(その1)

 ほんのちょっと動画講座を視聴したくらいなのに、すぐわかった気になって古文書解読の本番に入っていこうとする。この浅はかさは、最近になって少し自覚し始めた。
 手近な教材として、当会HPの古文書解読サービスコーナーで、解読例として翻刻文を掲載している「奉差上御請書之事」を使ってみる。
 この古文書は、仁寿山校の運営費のために同校に与えられた田畑の毎年の上納に対して、小作人から減免を申し立てた文書である。

 まずは冒頭のタイトル「奉差上御請書之事」を見てみよう。いきなり一文字目の「奉」が読めない。文字区切りを丸囲みして、一文字ずつ考えていこう。読めそうな字は「書」と「事」だけ。そうなると二つの字の間の小さな「し」みたいなのが「之」になる。このくずし字はよく出てくる。前述の動画講座でも紹介されていた。へんがはっきりしていてわかりやすいのは5文字目のごんべん。4文字目の行にんべんだ。4文字目は、本文中の他の箇所に同じ文字が何度も登場していて、それらを比べると「御」と読めるものがある。本文中に類似文字を探すやりかたは、歩兵十連隊で経験済みである。三文字目は文字割りからして「上」。

 

 

 

 

 

 

 残り三文字はさっぱりわからない。東京大学史料編纂所の「電子くずし字字典データベース」でごんべんを検索すると「請」の文字が当てはまった。

残りの2文字は部首さえわからないので検索ができない。

 人文学オープンデータ共同利用センターが開発した古文書解読アプリ「みを(miwo)」を使ってみる。古文書の写真を撮るとAIが翻刻してくれる優れものだ。結果は右のとおり。写真の上に重なって翻刻文字が出る。文字どうしが重なって読みにくいが、ちゃんと「奉」が表示されている。2文字目は間違っているが、これはPC画面を撮影したせいかもしれない。

 あと一文字「差」にはどうしてもたどり着けない。前段に書いたように毛筆でなぞってみるしかないかもしれない。
 タイトルのたった8文字だけで、これほどのたうち回るとは想定していなかった。今回はこれくらいにしといたる!まだまだ先は長いようだ。

<参考リンク>
電子くずし字字典データベース 東京大学史料編纂所
古文書解読アプリ「みを(miwo)」 人文学オープンデータ共同利用センター

「古文書奮闘記」への1件の返信

古文書に拘って10年以上過ぎました。西田さんの はじめに はよく分かりました。初心に戻って勉強しようと思いました。どうぞ宜しく!私が悩んでいる事が沢山あります、覚えた事を忘れてまた調べ直すのです、それから酷過ぎる癖字、誤字と思える文字に振り回される事も、よく似た崩し字の判別にも悩ませられます、まだまだありますが、入力が未熟な物で、ここまでにします、スキルアップを心がけようと思いました、有難うございました。

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